アメリカの閉鎖的な移民政策について、問題点と基本的な考え方を示した本。読み進むと、日本の状況とも共通点が多いことがわかる。世界の中でも日本はことさら移民に消極的と言われているけれど、日本で仕事に就いている外国人は決して少なくない。世界規模で見ても、移民に積極的な国ばかりというわけでもなく、その中で見れば、日本は突出して政治的難民の受入れが少ないことが確かに問題ではある。

今、敢えて国境を開こうと主張するのは、2008年のリーマン危機以降、グローバル・サプライ・チェーンのリスクが次第に見直されて、Covid-19感染症やロシアのウクライナ侵攻で、いよいよ決定的になったことも影響しているだろう。現実問題として、世界の国々の複雑な相互依存関係を切り離すことは難しいが、これまでのリスク軽視の経済運営の見直しに乗じて、様々な偏向した考え方が知らぬ間に息を吹き返すこともあり得るだろう。国際関係について言えば、残念ながら外国人に対する排斥的な考え方である。

この本は、移民を受入れると、受入先の国では失業率が高くなったり、文化的混乱が起きたりするのか、等々について、そうではないことを説明している。移民問題について、あまり詳しくない人には、良いガイドブックになるだろう。現実問題は、このような論点を根拠にして合理的に移民に反対する動きがあるわけではなく、むしろ感情的な問題があって、このような論点が悪用されていることも覚えておきたい。

以前、読んだイアン・ブレマー『危機の地政学』にもあったように、今、私たちが取り組むべきは、国とか、政治経済体制とかを超え、お互いに協力して、国際的な問題を解決することだ。あらゆる問題を一気に解決する万能な策はなかなか見つからないだろう。複雑に絡み合った問題を、ひとつずつ解きほぐすために、移民だから、外国人だから、という属性にこだわるのではなく、ほんとうに有効な解決策で、小さくても確実な前進をするために、多くの人の知恵や協力を集めることが必要だ。

ブライアン・カプラン、ザック・ウェイナースミス 『国境を開こう!移民の倫理と経済学』 あけび書房 2022年