昨年2月に始まったCovid-19感染症が、そろそろ1年半を迎える。日本では目下、新たな感染拡大の波も始まっていて、長期持久戦の様相は明確だ。心配なのは、人々の命を守る砦である病院や保健所のスタッフだ。専門知識を持つプロ集団とはいえ、未知のウイルスと最前線で向き合い、さまざまな緊張感に囲まれたまま、1年半を過ごしている。終わりが見えない状況で、この先、いつまで持ちこたえることができるだろう?医療関係者の使命感、という精神論に、いつまで甘え続けることができるだろう?

そんな疑問の中、月刊誌のハーバード・ビジネス・レビューが“燃え尽き症候群(バーンアウト)”への対処方法について、特集していた。燃え尽き症候群と言えば、過重労働が長期間続くシステムエンジニアなどの職場で多くみられる。しかし、その原因、対処法は必ずしも十分には理解されていない。多くのケースは「メンタルが弱い人」という個人の問題として片づけられている。休職を経て職場復帰しても、職場の状況が相変わらずで再発し再び休職、そのまま退職という不幸な場合も少なくない。

しかし、“燃え尽き症候群”は決して個人のメンタルの強さ、弱さの問題ではない。長時間にわたる肉体、精神の激しい消耗、やってもやっても終わらない仕事に対する無力感、それらが本人の高い使命感を打ち砕くほど無管理状態に追い込まれた組織の問題であり、そのことに無頓着なリーダーの資質の問題だ。今では“燃え尽き症候群”について一定の定義があり、それを測定する評価指標まで作られている。たとえば医療崩壊という現象も、単に病床がどの程度うまっているか、という、間接的な見方の問題ではなく、質的側面に踏み込んで問題の深刻さを測定可能な段階にまで研究が進んでいることを知っておきたい。

本誌第一論文のキーワード「突き放した関心」は、対人サービスにおける相手との適正な距離感のことだ。一所懸命、努力して看護したのに、その甲斐なく、重症患者を死なせてしまったことへの断ち難い無念さは、「突き放した関心」すなわち適正な距離感の維持を容易に突き崩す。重症患者を増やさないためには、新規感染者を減らすことも大切だ。大部分の人々は、外出を控え、飲み会も我慢している。テレワークで公私の境界線が曖昧になっても辛うじて耐えている。路上飲みや、夜間外出が増えていることは、確かに良いことではないけれど、本人の我慢が足らないからだ、と責めることはできるだろうか?社会や、組織に、問題は無いだろうか?医療崩壊だけではなく、社会崩壊も始まっているのでは?

なんだか、閉塞感ばかりの記事になってしまった。同じ「突き放した関心」を、逃した金メダルへの執着という側面から述べた、希望に満ちた言葉を添えておこう。スポーツ選手のバーンアウトについて論じた松岡修造氏のインタビュー記事だ。
「世界の舞台で、「負けてもいい」と思って戦っている選手は一人もいません。人生を賭けてやってきて、それでも届かないものがある。たとえ結果がついて来なくても、自分の中でベストを尽くしたのであれば、自分を責める必要はありません。そこまでの努力を自分が認めてあげられなければ、成功者と呼べるのは世界チャンピオンだけになってしまいます。」(90ぺージ)
「バーンアウトの処方箋」
ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年7月号(ダイヤモンド社)

「河野太郎規制改革相は27日の記者会見で、新型コロナウイルスワクチンの医療従事者への接種が23日までに完了したと発表した。26日時点の政府の集計で2回目の接種を終えた人は567万人にのぼる。(中略)対象者は当初480万人程度と見積もっていた。(日本経済新聞 2021年7月28日)」
当初、医療用のマスクやガウンが不足する中で感染者の看護に当たった医療従事者は、つい最近まで、ワクチンも行き届いていなかった。