建設業の請負契約に関する条文改正の続きです。

改正の法律(「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の則に関する法律の一部を改正する法律」)の公布日から起算して、(2)1年6カ月以内に施行される条文は、5つあります。

第19条の3 不当に低い請負代金の禁止
第19条の5 著しく短い工期の禁止
第19条の6 発注者に対する勧告等
第20条 建設工事の見積り等
第24条の5 不利益取扱いの禁止

(不当に低い請負代金の禁止)
第19条の3 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

2 (新設)建設業者は、自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができることその他の国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

第19条の3で新設された第2項は、建設業者自身によるダンピングを禁止しています。

(著しく短い工期の禁止)
第19条の5 注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

2 (新設)建設業者は、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

第19条の5で新設された第2項は、建設業者自身による過度な工期短縮を禁止しています。

第19条の3、第19条の5とも、現行法は注文者だけに禁止行為を規定しています。改正法では、工事を請負う建設業者についても禁止行為を規定しています。

第19条の6は、発注者に対する勧告を規定するので、この条文が参照する第19条の3、第19条の5から、建設業者に関する規定を除外する点を修正しています。形式的な修正です。

次の第20条は大幅に変更されています。

(建設工事の見積り等)
第20条 (変更)建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの(以下この条において「材料費等」という。)その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した建設工事の見積書(以下この条において「材料費等記載見積書」という。)を作成するよう努めなければならない。

2 (新設)前項の場合において、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであつてはならない。

3 (新設)建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあつては契約を締結するまでに、入札の方法により競争に付する場合にあつては入札を行うまでに、第19条第1項各号(第2号を除く。)に掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までの間に、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な期間として政令で定める期間を設けなければならない。

4 (現行第2項を変更)建設工事の注文者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、当該建設工事に係る材料費等記載見積書の内容を考慮するよう努めるものとし、建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。

5 (現行第3項を変更)建設業者は、前項の規定による材料費等記載見積書の交付に代えて、政令で定めるところにより、建設工事の注文者の承諾を得て、当該材料費等記載見積書に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該建設業者は、当該材料費等記載見積書を交付したものとみなす。

6 (新設)建設工事の注文者は、第4項の規定により材料費等記載見積書を交付した建設業者(建設工事の注文者が同項の請求をしないで第一項の規定により作成された材料費等記載見積書の交付を受けた場合における当該交付をした建設業者を含む。次項において同じ。)に対し、その材料費等の額について当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない。

7 (新設)前項の規定に違反した発注者が、同項の求めに応じて変更された見積書の内容に基づき建設業者と請負契約(当該請負契約に係る建設工事を施工するために通常必要と認められる費用の額が政令で定める金額以上であるものに限る。)を締結した場合において、当該建設工事の適正な施工の確保を図るため特に必要があると認めるときは、当該建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該発注者に対して必要な勧告をすることができる。

8 (新設)前条第3項及び第4項の規定は、前項の勧告について準用する。

第20条は、全面的に書き替え、追加されています。現行法との違いを検討するよりも、このまま読み込むほうが良いでしょう。

第1項は、見積書の記載内容に関する規定です。改正法で新たに導入された「材料費等記載見積書」という言葉が重要です。条文に従って、見積書の記載内容を整理すると、次の通りです。

・工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるものその他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳
・工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数

第2項は、ダンピングの禁止です。新設です。

第3項は、注文者に要求される配慮事項です。新設です。配慮事項を整理すると、次の通りです。

・契約書の必須記載事項(第19条第1項)について、可能な限り具体的な内容を提示すること
・契約締結または入札までの間に、見積りに必要な期間(期間は政令で規定)を設けること

第4項は、見積書の運用を形骸化させないための規定です。注文者が、材料費等記載見積書の内容を無視して契約を進めないよう、注意を促しています。注文者も、安易な姿勢で契約を締結することはできません。現行法で既に規定されていますが、不当に低い請負代金や、著しく短い工期で契約を締結している場合、注文者は、国土交通大臣又は都道府県知事から勧告を受けることになります(第19条の6)。そのような事態を避けるため、注文者は建設業者に対し見積書の提出を要求するでしょう。建設業者は、注文者からの請求があれば、材料費等記載見積書を交付しなければなりません。

第5項は、材料費等記載見積書を電子メール等で提供しても良いことを規定しています(注文者の承認が必要です)。

第6項は、注文者による過度な値下げ要求を禁止しています。

第7項は、政令で規定する金額以上の請負契約について、第6項に違反した注文者に対し、国土交通大臣又は都道府県知事が必要な勧告をできることを規定しています。

第8項は、第19条の6の第3項、第4項に対し、政令で規定する金額以上の請負契約の条件を適用することを規定しています。

(不利益取扱いの禁止)
第24条の4 (変更)元請負人は、当該元請負人について第19条の3第1項、第19条の4、第24条の3第1項、前条又は次条第3項若しくは第4項の規定に違反する行為があるとして下請負人が国土交通大臣等(当該元請負人が許可を受けた国土交通大臣又は都道府県知事をいう。)、公正取引委員会又は中小企業庁長官にその事実を通報したことを理由として、当該下請負人に対して、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。

第24条の4は、“第19条の3第1項”の部分が修正されています。現行法第19条の3は、注文主による禁止行為(不当に低い請負代金の禁止)の規定のみです。改正法では、第2項として建設業者による禁止行為の規定が新設されました。第24条の4は、元請負人という注文者に関する規定なので、第19条の3第1項のみを参照するように変更されています。形式的な変更修正です。