ピアノは部屋の中とか、せいぜい発表会の会場で弾くものだと思っていたので、近年のストリートピアノの流行で、人々の往来の多いビルや駅、商店街にピアノが置かれることについて、私は今でも少し違和感を持っています。それでも、ピアノの屋根に映った空の青、樹々の緑を見たり、演奏中に風の動きを感じたりと、狭い部屋で弾く時には味わうことができない開放感は貴重だと思います。都会にある、そこそこ豊かな自然をあらためて感じます。
書店で見つけた雑誌です。パラパラめくってみたら、ストリートピアノが置いてあるサイトの情報が満載でした。ストリートピアノのことは書いてないですが、周囲の環境の緑化の経緯や、ビル緑化の構造など、詳しく書かれていました。バラバラになった人々のつながりを回復し、すさんだ気持ちに癒しを与える、新しい出会いを創る、そのような願いから、都会に緑を増やしているのです。その一角にピアノが置かれていることの意味を考えさせられました。
ところで、緑(植物)と建築物は、自然と人工という意味で対立物です。植物を相手にする造園業は、建設業許可では、工事業種の一種として、その他の業種とあたかも同列に扱われていますが、自然を相手にする点で、本来は異色の業種だと思います。植物は、成長します。新規で植えた時より、その後、成長して大きくなったとき、メンテンナンスに、大きな手間がかかるのです。それが、現行の建設業の制度では、必ずしも十分に評価されているとは言えない気がします
最近、都市の緑化、環境というテーマの中で、緑、木材と建築を調和させようとしています。素材の観点では、自然物と人工物の相互浸食が起きていて、プロセスの観点では、新築-解体からメンテナンス中心に移行するのでしょう。建設業に関する諸制度も、そのような観点を取り込んで今後、変化するのだと思います。
東京人 2023年11月号