この30年間で、日本は物価が上がらず、給料も上がらない国になってしまったと嘆きの記事が溢れ返る。では、これからどうするのか?以前のように24時間闘う日本に戻るか?いやいや、それは労働法制的に、絶対ムリ。東アジア経済圏という視野で見ると、日本の相対的な地位低下、周囲の国の経済力が向上し、とりわけ中国がその盟主になった、という変化が重要だ。少し前まで、コンビニでアルバイトをしていた中国人を、最近は見かけなくなったと思ったら、日本の不動産を買う側にまわっていた。
今後も中国の経済発展がしばらく続くとすれば、その巨大なビジネスチャンスが周辺の労働力を強力に吸引するので、日本への経済移民は限られてくるだろう。しかしながら、人はパンのみに生きるにあらずで、政治や文化の好き嫌いにも大きく左右される。ゆるゆるで覇気が無いと見える日本も、視点を変えれば、安心、安定、なにより自由という恵まれた特質を備えた国だ。
この本にも書かれているけれど、私も含めて、趣味でピアノを弾いて、街なかにピアノがあれば図々しくポロロンと弾くようなオッサンがそこらじゅうゴロゴロ居る日本という国は、中国の人から見ると、やっぱり凄いらしい。中国は人口が多過ぎ、受験戦争も市場競争も激烈で、片手間にピアノなんか弾いてる余裕は無いのだ。ピアノに限らず、経済的に無価値のように見える芸術、文化に憧れる人は少なくない。同様に、経済のお荷物に見做される、安全、安心、人権とかを、重視する人も少なくない。
そうすると、確かに日本の経済的ランキングは低下したかもしれないけれど、そのランク付けが従う判断基準にも注意が必要だ。いわゆる、カネが最優先のビジネスが横行する世界で、上位と競り合う必要は無いだろう。これまでの経済が軽視してきた環境とか、安心、安全、信用、信頼、心を豊かにする文化、芸術を大切にする社会へと、日本も必死で変わろうとしている。そもそも目指す社会が違うわけですから。新型コロナ後のインバウンドで、外国人をどれだけ集めることができるかのヒントもそこにあるだろう。
中島 恵 『中国人が日本を買う理由』 (日経プレミアシリーズ 2023年)