独占禁止法の視点から建設業法について論じた本です。前半は独占禁止法、下請法と建設業法の関係について、後半は入札に関して、予定価格、契約変更を中心に論じています。入札に関する仕事をしていると、仕事経験が長いお客様は、いろいろな問題点をよく知っていて、詳しく話してくれます。部分的に理解できるのですが、そのようなお話の背景、歴史的な変遷などがよく整理されている本でした。
とくに、入札における契約変更は、当初の契約における競争の公平性を歪める可能性もあることから、慎重な取り扱いが必要です。ところが法制度の観点では具体的な規程の書き込みが薄くて、実務ではザツな運用も目立つのだとか。そもそも論では、官公庁の無謬性という、一種の神話が今でも残っていて、だから契約変更に関する規定は必要無かったのでは、という穿った見方も書かれていました。
契約変更については、正式な契約手続きが蔑ろにされている、という話はよく聞きますし、実際、そのようです。契約の実態がうやむやになっていくので、よろしくありません。そういえば、建設業の無許可業者が軽微でない工事をした場合、営業停止処分の期間中は、新規受注をすることも、そのための交渉をすることも禁止されます。同様に契約変更も禁止されます。それは、契約変更に乗じて、本来は新規受注として処理すべき無関係な工事をブッ込まれる危険があるからなのですね。
それから下請法についても注意が必要です。工事請負契約については、建設業法が適用されます。下請法は適用されません。建設業者は、下請法は関係無いのか?そんなことはなくて、設計業務を委託する場合は、下請法が適用されます。それから建設資材の製造を外部委託している場合もそうです。下請法と似た法律にフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)があります。これも、建設業の一人親方と取引する場合には関わってきます。下請法は来年1月から中小受託取引適正化法になります。建設業者の調達に関連する法律は、このところ変化が激しいです。
楠茂樹『公共工事、建設業における競争の法と政策』(有斐閣 2025年)

