本の内容にしては、控えめなタイトルです。内容から言えば、「人類の終活~絶滅までの今後300年~」あたりが適切かも。少子高齢化、人口減少は世界的規模で進行していて、2050年を過ぎた頃から世界は長期的な人口減少期に突入し、最悪なシナリオでは、人類は、あと300年程度で絶滅する、と。

日本の少子高齢化の議論を見ていると、“ずっと以前からわかり切っていたことなのに、何をいまさら”とか、“選挙対策のばら撒き”とか、八つ当たり感満載のもの、“新しい資本主義”とか“子供まんなか社会”とか、とりあえず感が滲むもの、いろいろです。しかし、本書によると、
「この人口減少は豊かさと自由を追求してきた人類社会が生産力の飛躍的発展を通じ長寿化する一方、自らの出生力をコントロールする自由を拡張してきた結果、個人の選択の自由が、社会全体としての人口学的不均衡をもたらすに至った、その必然的帰結であると捉えるべきものである。」(98ページ)
つまり、少子高齢化、人口減少は、全世界的に、多少の時間差を伴いながら進行するトレンドであって、金融資本主義が問題であるわけでも、経済格差が原因であるわけでもありません。

世界的な人口減少が、人類のイノベーションという不断の努力と、自由の拡張という不屈の精神の結果だとすると、一所懸命まともに頑張るほど人口が減少するわけですから、人口減少を防ぐには、ちゃらんぽらんに生きるしかありません。そういう生活も1週間程度なら続くかもしれません。生まれてから死ぬまでず~っとちゃらんぽらん、って耐えられますか?しかも、その間にも人口減少は進むので、身の回りのインフラは老朽化し、社会制度は維持できなくなり、人間関係も徐々に壊れて行きます。ツラ過ぎる。ちゃらんぽらんは冗談としても、人口減少の対策の本質的な難しさは、人類の勤勉さにあるのです。

さて、世界的な人口減少により、何が起きるのか、どのように対策するかは第4章に詳述されています。経済環境について言うと、人口減少に合わせて縮小経済となり就業機会が減ります。“働かざるもの食うべからず”の考え方、価値観は修正を迫られます。誰ひとりとり残さず、みんなが人間らしく生きることができるよう、再分配の問題が深刻になるので、それを実現する政策に対する社会的な合意形成が重要です。“話し合い”、“対話”が大切です。“聞くチカラ”だけでは不足です。“なんとかファースト”みたいなことを声高に主張する人は、時代遅れ。戦争とか始めてしまう人は、論外です。

ところで、合計特殊出生率、ありますよね。人口が増減しない分岐点は2.1です。日本は1.4で、先進国の中では低いほう。フランスも一時低かったけれど、制度改革をやって1.9まで回復したとかで、日本も今さらながら、それを目指して頑張るのかと思っていましたが。ぶっちゃけ、単なる時間稼ぎでは?

それから、持続可能性。どのくらい持続できると思いますか?この本によると、300年かそこら、です。対策がうまくいけば、人口構成は安定するけれど、それでも人口は減少するので、300年よりは多少、長くなるかも、みたいな。やっぱ時間稼ぎなのか?

この本、超こわいです

原 俊彦 『サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る』(岩波新書 2023年)