建設業許可で毎年、決算後に提出が義務付けられている決算報告。事業報告書は、毎期、同じ文面を丸写し、という事業者が少なくないようです。損益と資金繰りの状況を確認するだけでも、それなりに有意義な情報を拾えます。近年は、新型コロナウイルス感染症や、ロシアのウクライナ侵攻というチャブ台返しのような世界的事件のおかげで、経営がかき乱されています。チマチマ真面目に経営する意味あんのか、と。一時期は確かに、分析しても意味無いな、と思うほどの惨状でしたが、売上高や損益は、なんとか新型コロナ禍前の水準に迫るか、超えたか、というレベルに回復して来たところもあります。ひと安心、良かったな、と思いつつ、資金繰りに目をやると、借入金が膨らんでいたりして、なかなか手放しでは喜べません。

財務諸表による経営分析では、短期的な収益性分析と長期的な安定性分析とのバランスを常に意識します。一般に収益性と安定性とは相反する関係にあり、両方同時に高めようとすると、経営施策の効果が減殺されます。そこで、最重要な課題を特定して、対応施策を打ちます。実際の経営は複雑なので、必ずしも教科書通りではありません。ただ、現場で経営に携わる人たちのお話を伺う時は、私も教科書程度の理解は準備して、問題意識をチェックしています。

ところで、経営を、現実(短期)と将来(長期)という視点で財務分析したのは良いけれど、対応する目線で経営を語る教科書がなかなか無くて、有名な教科書になるほど、自分の言いたいことを言いたい放題、みたいな。話の素晴らしさはわかるけど、それって、どんな時間軸で何を改善しようとしてるのよと、あまたある経営理論のイチイチにツッコミを入れたくなるものです。

そのような中で偶然、出会ったこの本は、章立てから日常オペレーション(短期)、イノベーション(長期)、社会との調和という構成で、経営分析の問題意識に沿っています。有名な経営学の理論を、手際よく要約し、長短の時間軸、領域(人事、組織、マーケティング、営業、製造、財務)に配置してくれています。見通しが良くて、超便利。タイトルは“経営学入門”となっていますが、簡潔な説明の背景を知っていればそれだけ、深い納得感が得られます。

さて、最初の話に戻るのですが、業績が回復してきたとして、その内容はよく検証する必要がありそうです。建設業だと、取扱っている工事の内容が、新型コロナ禍前後で変わって来ている場合(兆し)があります。工事業種とか、許可要件に気をつけましょう。

青島矢一、榊原清則 『はじめての経営学 経営学入門』(東洋経済新報社 2022年)