産業廃棄物処分場の申請を例として、行政法の概略を説明した本です。行政法という法律はありません。行政活動に関する様々な法律すべてと、その裁判例の集積からエッセンスを抽出して行政法というタイトルの本は書かれます。だから行政法の本は、もっとブ厚くなるはずで、実際その通り。そのような本を入門者がいきなり読み通せるはず、ありません。そこで、若干の説明不足は認めつつ、全体像をコンパクトにまとめるにあたり、産廃行政に顕著な論点、問題意識というスジを一本通したのが、この本です。ちょっと古い本だけれど、問題意識がしっかりしている本です。

行政法の基本原理として“法律による行政の原理”があって、いかなる行政活動も、法律の決めた範囲内でしか動くことはできない。と言っても、これは原則であり、実際には、この原理をあやうくする現象は、珍しいものではない。産廃行政は環境問題の一翼を担うので、環境科学の急速な進展による専門知識が必要だし、環境問題に対する意識も、新型コロナ感染症以降、急激に深まり、社会通念そのものが変化しようとしている。従って法律による事前的な対応では不十分、というのが産廃行政の特徴のひとつだ。

法律による事前統制で不十分なところを、指導指針や、地方自治では条例などが埋めて行く。社会の新しい動きを、先駆けて条例が拾い、その勢いに押されてようやく法律がカバーする、というのが一般的な流れだ(最近は、法律がなかなかカバーしてくれない、という場合も少なくないが)。行政で踏み固められた運用が、立法に反映されることを考えると、地域の住民や事業者も、のほほんと振る舞っていてはダメだな、と思う。いちいち、いちゃもんをつけるわけではないけれど、疑問に思ったことを行政の担当者に確認するだけでも、「それって、そういう意味だったの?」と発見があったりする。行政との対話を通じて、規則運用の成熟度なども、なんとなく確認できたりするのです。

というわけで、産廃行政、環境行政では、地方自治を軽んじてはいけない。地方自治は、さらに地域の独自性という特殊事情を抱えていて、これが法律による行政の原理から逸脱しようとする、もうひとつの強力なファクタだ。たとえば東京都は消費の集積地だから大量廃棄物の発生をいかに抑制するかが課題だし、近隣各県は、大量の廃棄物の運搬、処分の適正化に頭を悩ませる。そんな状況も、地方分権、地方活性化で将来は変わるかもしれない。いずれにしても、地域の個性を大切にすることが、法律による行政の原理を本質的に鍛錬するのだと思う。

大西 有二ほか『設例で学ぶ行政法の基礎』(八千代出版、2016年)