法律の本は、正直、読むのが面倒くさいです。参照すべき条文番号とか、告示、通達のタイトルとか、そんなものが文の途中にゴロゴロ挿入されていて、読んでいるうちに主題が何だったか、わからなくなる。慣れると、ある程度、スキップして、要点だけ拾い読みできるのだけれど、重要な文章に突き当たると、やっぱり、書いてある通りに“寄り道”しながら読むのです。

その点、これは気持ちよく読める会社法の本です。参照条文の記述が無いだけで、法律の本も随分読みやすくなるもんだ、と実感です。実務では、具体的な条文の正しい解釈に準拠することが求められるけれど、会社法の概略とか、大きな方向性とかを説明するなら、条文を引き合いに出さなくても、いや、出さない範囲で、なんとか出来ませんかね?そんな願いを叶えてくれる本です。

会社法の大きな論点として、ファイナンス、ガバナンス、オーガニゼーションを括りだす。その上で、歴史的な観点からそれぞれの方向性を整理し、大企業、中小企業によってウェイトの置き方が違うことや、世界的な会社法の潮流との関係を明らかにする。組織再編の部分は、わりとボリュームがあったけれど、普段、マスコミ報道の説明とは視点が違っていて、意外に面白く読めてしまった。

ありがちな会社法の理解として、自分は中小企業専門だから、そこだけ理解しておけば良いか、というのがある。現実問題として、確かにそのようなアプローチも大切だと思う。しかしながら、近年の新型コロナ感染症の問題や、ロシアのウクライナ侵攻で明確になった、世界と日本の密なつながり、サプライチェーン、経済安全保障、ビジネスと人権などの問題を考えると、果たしてそれで十分だろうか?と疑問になる。世界とか、大企業とか、そういうところからも、日々、いろいろな問題の波が押し寄せて来るわけですよ。そこが、これからどうなっていくのか、知りたいじゃないですか。

神田秀樹 『会社法入門 第三版』 岩波新書 2023年4月