アンドロイドの研究、開発で有名な石黒浩氏の講演会に行った。

梅雨明けを思わせる強烈な陽射しから避難するようにして講演会場に入ると、薄暗がりの演台には黒づくめの衣装の男が座っていた。講演開始30分前なので、たぶんアンドロイドだろう、と思っていたら、石黒氏ご本人だった。

石黒氏と言えば内閣府のムーンショット目標1をリードするプロジェクトマネージャーの一人だ。そのムーンショット目標1とは“2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現”である。初めて読んだ時は意味がわからなかった。ムーンショット目標は、壮大過ぎて簡単に実現はできないけれど、実現すると大きな社会的インパクトが期待できる目標のことなので、意味がわからないくらいでないと意味が無いのかもしれない。

しかし、石黒氏の講演を聞いていると、人間の脳と身体のパーツとは、それほど密な関係ではなく、生身の肉体と機械のパーツとは、意外に交換可能なのだそうだ。また、人間とロボットとはコミュニケーションという関係で互いに接近しつつあり、場合によっては人間対人間よりも人間対ロボットのほうが、コミュニケーションがスムーズなこともあるのだそうだ。そのような研究を、ロボットや、そのソフトウエア版であるアバターを使って続けていらっしゃるそうだが、おそらく、家庭電化製品やチケット販売機、ATMなどが絶えず人間に向かって言葉を話しかけて来る日常は、遠い未来における人間とロボットとの共生社会の予兆なのかもしれない。

質疑応答では、50年後の未来に向けて、今、必要なこと、やらなければならないことは何ですか?という良い質問があった。いつどこからミサイルが飛んで来るかわからない御時世で、それまで自分が生きているかどうかもわからないけれど、それでも何か、できることを考えよう、できればその行く末を見届けようという心持ちが素晴らしい。日本の平均寿命は130歳ぐらいになりそうだ。

ところで、演壇で講義をしていらした石黒氏は、本当に本人だったのだろうか?いや、そんなことはもう、どうでも良い時代なのだろうか?

石黒 浩/アバターと未来社会
成蹊大学Society 5.0研究所主催 第5回講演
2022年6月25日