政府が、昨年から「新しい資本主義」について検討を始めた。当初、言葉が先行して内容がよくわからないと思っていたら、「新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議(※注)」が立ち上がって、大急ぎで内容を検討しているようだ。今までの経済のあり方に問題があり、日本社会が閉塞感に包まれた状態にある、という危機的認識、危急的問題意識があるのかと、少し期待しているのだが。
そもそも、資本主義に古いも新しいもあるのか?それこそ衣服のように、古いものを脱ぎ捨て、新しいものを着るようなことができるのか?2008年のリーマン危機の時、資本主義は自壊した、などの主張もあったが、その後、さらに普及したインターネット技術と結びついて、資本主義は全世界的で拡大、強化、深化を遂げた。その結果、社会的な分断は以前にもまして深刻になり、さすがに地球環境の観点からも、従来ペースで経済をまわしていくことの危険性が、国際的認識として共有されるようになった。資本主義の弊害は、ますますひどくなった。
資本主義の議論は、不況のたびに繰り返される。それはつまり、資本主義は本質的に変わらない、ということなのだろう。その理由として、資本主義は、私たちの社会にとって拒否することも含めて選択可能な制度ではなく、人間の性状に基づいて、自然にそのような行動をとってしまう社会の在り方だから、と言えるかもしれない。
人間は、昨日より今日、今日より明日という希望を持って生きている。この本が主張するように、人間の“生きる希望”が、資本主義の原動力だとすると、資本主義は人間の、人類の生き方そのもの、ということになる。問題は、“生きる希望”の先に目指すものが、全人類が共有できる夢なのか、特定の個人だけが独占する野望なのか、ということだ。
それにしても世界は、最近、新型コロナウイルスとか、ウクライナ侵攻とか、大きな問題と立て続けに向き合っている。世界の人々の“生きる希望”の先に、全世界の平和や安全が高く掲げられていることを信じたい。
大川内直子『アイデア資本主義』実業之日本社