小学校などの法教育の授業では、身近なルールということで図書館の利用方法が取り上げられることが多かったが、最近は、スマホやSNS利用の低年齢化が進んだ影響で、コンテンツの再利用に関するルールを教える機会も増えている。著作権は、とくに許可などは必要無いから、誰でも簡単に著作者となって主張できる。それは、小学生にとって、知らずに他人の著作権を侵害する危険が増えている、ということでもある。

大人でも、著作権は難しい。正直に言えば、専門家でも難しい。二次的著作物とか支分権とか、さらに業界の権利主張も絡んで対称性が破れた規定になっていて、なまじ法律的思考とかで、うっかり常識でさばくと痛い目に合う。とにかく条文に忠実に処理する必要があるし、そのためには、それなりにブ厚い解説書にも目を通して、条文を正確に解釈する必要がある。このように複雑で、ビジネスにも影響の大きい著作権が、昨年、学校教育の場で問題になった。Covid-19感染症の拡大で授業が突如、オンライン方式に切り替わり、教材のコピーやインターネットを介した送信が、著作権法の制約を受けたからだ。超多忙な学校教師が残業後(?)、複雑な著作権法を読んだり解釈したり、なんてことが必要無いように「改正著作権法第35条運用指針」が公表された。「あー、助かった」と思ってクリックすると、これがA4版で充実のビッシリ40ページ。完全に心が折れた、と思っていたら、救う神は居たもので「著作権ハンドブック」は学校現場の先生のために、先生の視点で書かれている。法律の説明は、現場の誰の目線で説明するか、ということがとても大切だと、あらためて気付かされる。

“第Ⅰ部 5分でわかる著作権の基礎知識”は、そのまま生徒向けの著作権の授業の参考になる。それよりオンラインの授業運営で役立つのは、“第Ⅱ部 著作権の常識・非常識”だろう。著作物の具体的な利用シーンを想定して、豊富な事例を取り上げている。似ているけど微妙に違う事例を隣合わせて並べていたりするので、知りたい項目を見つけたら、その前後含めて読むことで、必要な部分が、深く腑に落ちる構成だ。これを読んでわからなければ専門家に相談すべきでしょう。

心配なのは、生徒の中には、先生に憧れて、先生の真似をする場合が少なくない、ということ。先生のマネして、不用意に著作物をコピーしたり、ネット配信したり、しないように気をつけてあげてください。「えー、なんで先生はやっていいのに、私はダメなの?」とか言われそう。うーん、著作権法でそーなっているんですっ。著作権って、ほんと、ややこしい。

宮武久佳、大塚大/著作権ハンドブック(東京書籍)

「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」