なし崩し的に始まってしまったオリンピックが終わり、気がつけばパラリンピックも終わりつつある。常識を超えていく選手たちの激闘ぶりは素晴らしいし、大会を支える関係者の功労は称えるべきと思う。それにしても納得がいかないのは、Covid-19感染症の状況が日々、厳しくなり、もはや“災害レベル”と言いながら、オリンピック、パラリンピックについては、やる理由もやめない理由も明言しないまま、“安心安全な”という、もはや枕詞になり下がった形容詞とともに、結局開催してしまったことだ。たしかにオリンピック、パラリンピックの内側は安心安全だったのかもしれないが、一国全体の安心安全に責任を持つべき政治なり行政なりが、部分的な安心安全を優先させたことは、権力の暴走だ。このことについて、果たして説得力ある説明がつくだろうか?
感染症の数理解析で有名な、“8割おじさん”、西浦博士の論考が、数学セミナー最新号に掲載されていた。今回は実に、不思議なタイトルだ。
“予防接種完了時の新型コロナウイルス感染症流行をどのように見通しているか”
主語は?誰が、そう見通しているのだろう?
政府は、ワクチンが切り札だと言い張る。けれど、ウイルスは弱毒化する気配が無いどころか、新種株は凶悪化しているし、ワクチンそのものがどの程度の期間、有効なのかも十分にわかっていない。人々は行動制限には飽きてしまった。世界には、接種がほとんど進んでいない国もある。この事態は、政府が言っているほど、簡単には終わりそうもない、とうすうす感じていた。西浦博士の論考も、事態の長期化に備えて、必要な軌道修正を訴えている。
パラリンピック会場の外には、非常事態宣言下や蔓延防止措置の地域があり、経営難に苦しむ飲食店、入院できずに自宅療養を強いられる感染者が居る。折しも、寝耳に水の首相辞任。次の政権は、国民と対話をしたうえで、世論に迎合するにせよ対峙するにせよ、データを踏まえ、論理的な理由や根拠とともに明確な主張を提示してほしい。というか、“次の政権は(主語)”、予防接種完了時の新型コロナウイルス感染症流行の見通しを、多くの国民と共有して欲しい。
西浦 博/予防接種完了時の新型コロナウイルス感染症流行をどのように見通しているか
数学セミナー 2021年9月号(日本評論社)