東京オリンピックが終わった。いっぽうで外出や飲食などの行動を自粛せよ、他方で開放的な気分を高揚する世界的イベント開催という、意識と行動を不一致な状態に置いたまま、なし崩し的に過ぎた17日間だった。スポーツが悪いのではない。イベントの開催のあり方や意思決定が、社会的に見て果たして適切だったか、という問題だ。スポーツそのものは確かに良かった。スケートボードとか、空手(形)とか。

しかし、オリンピックばかり見ているわけにもいかない。仕事もあるし、読書もしなければ。この本は、余計なお節介ながら、タイトルが少しズレている。著者が売却した会社は、先代社長が開拓した独自の鍛造技術で、もともと卓越した強みを持っていた。しかしながら、高圧的な営業態度などにより、本来の価値をお客様に正しく伝えることができておらず、受注減に見舞われていた。先代社長の後を継いだ著者は、自社の強みである鍛造技術の真の価値を見抜き、会社組織を徹底して磨き上げることで、価値を本来の水準(またはそれ以上)に高めたのである。

M&Aを意識して、具体的な取り組みを検討している事業者にとって、会社の磨き上げに関する即効性の高いノウハウが数多く記述されている。それぞれ独立して個別に読むこともできるけれど、私は、新型コロナ禍の経営という観点から、“組織を整える”という軸を意識して読んだ。興味を持ったのは、著者が、(1)経営者が自分の意識を変える、(2)経営者が自分の意識をもとに行動を変える、(3)組織の行動を変える、と段階的なアプローチを説明している点だ。Covid-19の影響で、経営者も従業員も、少なからず心の混乱を抱えている。それが組織の混乱を引き起こす。組織の乱れは、自分の外の現象なので目につきやすく、目についた部分から、つい文句を言いたくなる。しかし、本当に乱れているのは組織という影ではなく、経営者や従業員など、組織を構成する要員ひとりひとりの行動であり、心だ。とりわけリーダーである経営者は、自分の心の乱れに気づき、必要に応じて行動を修正すべきだろう。ひとりひとりが意識と行動を一致させること、その結果、組織が意識と行動を一致させることが大切だ。

新型コロナ禍も1年半を経過した。世界のほとんどの国がCovid-19感染症の惨禍を同様に経験したが、今後は、ワクチン接種の進捗状況により、各国がバラバラのタイミングで景気回復して行くだろう。あるいは突然の変種株の猛威による経済再停止もあるかもしれない。進むべきか、立ち止まるべきか、適切な判断とスピーディな行動ができる組織でなければ、振り落とされる事業環境において、俊敏な組織を作ること、組織を整えておくことが必要だ。

重要なメッセージを枠で囲んであるので読みやすい。チャート式経営論。

平 美都江/なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか(ダイヤモンド社)