街の社会的機能分化とその歴史的経緯を地図から読む方法。鉄道、幹線道路の果たす役割が大きい。つまり、人の流れ、集客力だ。街の中心、賑わいの重心の移動は、労働力の国際間移動と共通している。近隣の街どうし、国家どうしの相対関係という、少し距離を置いた、広い視野からの分析が必要だ。

この本の中に、大型書店は、街の賑わいから少し離れた場所に立地する、という記述があった。私もときどき専門書を探して、書店巡りをする。たとえば新宿駅で大きな書店をハシゴする時は、南口付近、次は西口付近、そして東口へ、と歩きまわる。新宿駅を中心として、それぞれの地域で目にする街の様子の移り変わりから、新宿の賑わいの様々な広がり、偏りなど、おおまかな雰囲気は感じ取っていたように思うけれど、それを言葉で説明する試みを知ると、今度はそれを検証するために、あらためてじっくり歩いてみようか、という気分にさせられる。

その大きな書店も最近は各地で徐々に減る傾向だ。鉄道開通、モーターリゼーションに次いで人々の流れを大きく変える要因は情報技術だろう。自分の商売に集客が必須の条件なのか、対面の職場が本当に必要なのか、そのような問いと向き合うデジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代の流れを、COVID-19感染症が加速する。その結果、不要な施設、必要な施設が、かつ消え、かつ結びて、次の時代に合った賑わいを作り出すだろう。

情報技術が創る街の賑わいは、街の物理的な距離圏という制約を容易に超えていく。COVID-19感染症の影響で、さまざまな街の行事が中断の危機にある。情報技術の活用を検討することも大切だが、本当の課題は、街の個性を特徴付ける地理、歴史に根差したコンテンツそのものの見直し、再構成だろう。

今和泉隆行/「地図感覚」から都市を読み解く(晶文社)