大学入学共通テスト第1日目の政治経済について考えた。

とくに第1問が、COVID-19を巡り、経済か、感染対策かで揺れ続ける日本の現状に対し、ひとつの視点を与えているように思う。

第1問は、豊かな社会について考える問題で、「経済成長」、「所得分配」、「持続可能性」の3本柱で検討しているが、経済という単一の尺度で論じることはできませんよね、という前提から始まる。それが問1だ。

社会が豊かであるとは、単に所得が高ければ良いというわけではない。誰もが常に健康で長生きできること、高い教育を受け、文化的な生活ができ、自分の意思でさまざまな判断が自由にできること、すべて個人として尊重されることなど、それらがすべて満たされる社会こそ真に豊かな社会と言えるだろう。そのような視点に立つなら、経済か、生命か、という二項対立に陥ってフリーズすることはない。社会を構成する人々の自由な議論とリーダーシップにより、時間的、地理的にさまざまな調整を加えながら、医療福祉活動、文化的活動、経済活動をバランスさせて少しずつでも動かすことが可能になるだろう。

問1
人間開発指数(HDI)に関する問題。政治経済の教科書には、なかなか掲載されていないかもしれない。

国連開発計画の人間開発に関する考え方はおおむね次のようなものだ。すなわち、経済的豊かさのみに依存した発展は、豊かな国と貧しい国の不均衡を拡大する。やがて豊かな国の消費パターンが世界規模での環境問題を引き起こし、十分な対応手段を欠く貧しい国の人々の生活を危機に陥れるだろう。それはやがて豊かな国にも波及し、地球全体が危機に瀕してしまう。公正で平等な世界の実現が必要だ。

そこで、国連開発計画は、社会の豊かさや進歩を測定するために、評価基準を拡張した新しい指標、「人間開発指数(HDI)」を開発し、Human Development Reportとして1990年から毎年、各国の測定結果を発表している。

(1)正しい。
(2)正しい。
(3)正しい。
(4)誤り。HDIは、1990年にリリースされたHuman Development Reportの中で登場した。その中に、次の記述がある。
This Report suggests that the measurement of human development should for the time being focus on the three essential elements of human life — longevity, knowledge and decent living standards.

従って(4)が正解。

今回のCOVID-19でも、経済的不均衡が感染率や死亡率の高さ、適切な感染予防手段とのアクセスの容易さなどと関係していることがわかっている。ワクチンも、放置すれば経済的に豊かな国が資金力にモノを言わせて独占的に買い進めてしまうだろう。しかし、そのようにして1国だけがCOVID-19禍から解放されても、すでに一蓮托生となっているグローバル経済のもとでは、十分に対策できない貧しい国からCOVID-19が再流行する可能性があり、あるいはグローバルな規模で十分な経済活動を再開できず、結局、どの国も以前のような繁栄を享受できなくなってしまう。まさに国連開発計画が危惧するシナリオが、一歩間違えば成就する可能性に私たちは直面しているのである。

問2
社会の豊かさを経済的側面から測定するGDPに関する問題。
2016年の名目GDP=-6%なので、a=500×(100-6)÷100=470(a)
2017年の名目GDP=(520÷500-1)×100=4
問題文“2015年と2016年の一人当たり名目GDPが同じである。”から
a÷47=10、500÷10=50(b)
実質GDP成長率c=(520÷500-1)×100=4(c)
従って、(8)が正解

計算問題としては以上で終わりだが、Aパート「経済成長の側面」について検討すると、名目GDPは頭打ち、実質GDPは伸びている。人口は毎年減っていて、物価動向を表すGDPデフレーターも毎年減っている。それでも一人当たり実質GDPは、毎年伸びている。そういう経済は、どんな経済だろうか?日本経済と比較して、どんな印象を持つだろうか?経済指標だけで、いったい何を想像できるだろうか?

問3
まず、各肢の国名を特定する。
(2)“2010年に世界第二の経済大国となった”から中国
(3)“サブプライムローン問題を契機にリーマン・ショックの震源地となったこの国”からアメリカ
(4)“アパルトヘイト撤廃後に経済自由化が行われた”から南アフリカ
以上から(1)は日本。

次に、各肢の内容を検討する。
(1)“2001年に消費者物価指数が上昇した”とあるが、グラフからは読み取れない。
(2)正しい。
(3)“2009年に消費者物価指数が上昇した”とあるが、グラフからは読み取れない。
(4)“2000年以降、消費者物価指数の変化率が毎年4%以上になっていた”とあるが、グラフからは読み取れない。
以上から(2)が正解。

問題では問われていないけれど、経済成長が停滞している日本は、物価がなかなか上がらない。経済成長が活発な国は、物価も高い、という傾向を読み取ることができる。

問4
日本の所得格差に関する問題。ジニ係数は、所得格差を定量的に分析するツールである。この数値が大きいほど、格差が大きい。問題文の図から、当初所得で見ると50歳台半ばから格差拡大の傾向が読み取れる。所得再分配効果で均一になるはずだが、それでも50歳台半ば以降は総じて格差が大きいことがわかる。健康面での問題が強く影響するのだろう。人生100年時代と言われる現代日本において、人生後半の厳しい現実の克服は無視できない課題である。

(1)誤り
(2)誤り
(3)誤り
(4)正しい

社会的不均衡を経済尺度で評価可能な範囲に限定しても、再分配政策を実施してなお、不均衡が是正しきれていないことの問題性を確認しておきたい。当初所得で見ても、50歳台半ば以降の格差の拡大について、もっと早い段階で何か手を打つことができるかもしれない。事後的にも、十分な医療、介護サービスを誰でも同様に受けることが可能なのだろうか?所得再分配という事後的調整に大きく依存している現状は問題だろう。

問5
社会保障を財源から見ると、北欧型は租税中心(ア)、大陸型は保険料中心(イ)、
“社会保障関係費を賄うため、・・・財源として組み入れを予定し、増税を進めた”は、社会保障と税の一体改革のことで消費税(ウ)
“40歳以上の人々を加入者とする”介護保険(エ)
従って(6)

この仕組みも、今や時代遅れで大幅見直しが必要だ。とくにCOVID-19感染症で、病院や介護にかかる負担が無視できない今、高度経済成長期の制度の部分修正の積み重ねで持続可能かどうかは疑問である。

問6
持続可能性のテーマで、視線がいきなり環境問題に飛ぶので、なかなか頭がついていかないかもしれない。しかし、問1で問われた人間開発指数の問題意識は、まさに経済指標で測定できない社会の豊かさの問題である。外部不経済、つまり経済活動において無視されがちな要因により、人間の健康などが害されてしまうこと、と考えると、問題意識としてつながっていることがわかる。

a 誤り。有害廃棄物の国境を越える移動とその処分を規制するのはバーゼル条約。
b 正しい。
c 正しい。
従って(6)

問7
気候変動枠組条約の問題だ。京都議定書は、アメリカのブッシュ政権が離脱してしまった。パリ協定は、またしてもトランプ政権が離脱してしまった。2008年のリーマン・ショックは、行き過ぎた市場経済に対する反省もあり、環境問題が見直される機会のはずだったが、インターネット経済の本格的な普及拡大で、結局、経済偏重路線は変わらなかった。環境問題の領域は落胆続きである。近年、ようやくSDGsが提唱されたところに、COVID-19危機を経験し、世界は今度こそ環境問題に真正面から取り組むようになるのだろうか?

(1)正しい。
(2)正しい。
(3)正しい。
(4)“その目標を達成することが義務づけ”が誤り。
従って(4)