科学のコーナーで、宇宙・気象っぽいグループに並べてあったりする本。

タイトルの“宇宙と宇宙をつなぐ”が、宇宙論を想像させるけれど、“宇宙”とは“異なる論理構成をもつ数学の体系”のことだ。それが通常、私たちが慣れ親しんでいるもの以外に複数存在することを前提として、それら異なる“宇宙”を緩く連携させながら「ABC予想」を解決する、数学の新しい理論、と読んだのだけれど、自信はありません。

理論提唱者である望月新一教授のホームページに論文が掲載されている。大容量にも驚くけれど、見慣れない記号がえんえんと続く。宇宙人のメッセージを眺めるだけならロマンもあるが、これを読んで理解する気持ちには、ちょっとならない。そんな理論を素人向けに紹介する無理、というか無謀に挑んで、著者ご自身も、その難しさを文中に時々吐露している。群論の説明や役立ちについては、素人の私にもよくわかる見事な説明で、決して、著者の能力の問題などではなく、IUT理論の難解さが、想像、類推の域を超えているのだと思う。

むしろ、“科学離れ”と言われる時代の一般の人々に対して、科学を伝える難しさや、“科学ムラ”の住人の行動様式、思考様式を伝える本書前半部分を興味深く読んだ。

今年は新型コロナウイルスの騒動で始まり、その混乱に収束の兆しが見えない。今は、感染拡大防止と経済活動再開のバランスを巡り、政治ムラと科学ムラのギクシャクした関係性がいよいよ顕著になった感がある。緊急事態宣言の少し前、感染爆発を警告した感染症数理モデルの考え方、その活用方法について、私たちの社会は適切な理解をしているだろうか?政治判断の名のもとに、科学者からの提言を、都合よく修正し、あるいは軽視、無視している、そんな性向が、社会一般に無いだろうか?と疑問に感じる。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の顛末も、そんな疑問を増幅した。感染症対策専門家の啓発努力、積極的提言は評価されて良いと思う。いっぽうで政治的判断との干渉など微妙な問題も確かにあった。しかしながら、今後は同様の組織体がますます求められる時代になる。骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)にもEBPMと合わせて専門家の活用が言及された。政治と、医療、経済の専門家と、お互いの位置関係の模索の時代が始まる、そんな気がする。

IUT理論は、もうひとつ別の数学世界を創り、足し算と掛け算の密接不可分性を解体することで、ABC予想の解決を可能にした。残念ながら、私たちの世界は、政治も経済も医療科学も一蓮托生だ。しかしそれでも、一度、それぞれの課題を分離して、丁寧に見直してみましょうよ、という慎重なアプローチは“アリ”だと思う。「それぞれの政治リーダーの言うことがバラバラだ、なんとかしろ」とか「そこは政治判断でしょ」とか安易に言える時代ではない、というのが、ウィズ・コロナの今の迷いであり、希望の片鱗である。

加藤文元/宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃(角川書店)